ZレーサーⅢ

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2017年4月号から本誌連載企画としてスタートした、サンクチュアリー本店のレーサー製作記『遥かなる頂への挑戦』。2019年9月をもって本誌が不定期化したことで、本誌で紹介できたのは同社レーサー、ZレーサーⅢが一応の完成を見たところで終わってしまったが、当然ながら同社の挑戦は続き、2019年11月にはテイスト・オブ・ツクバに参戦。ベストラップ58秒664をマークしている。

そして2020年5月のテイスト・オブ・ツクバ自体が中止となったことで、久しぶりの実戦となったのが、11月7日(土)・8日(日)に行なわれた2020テイスト・オブ・ツクバ KAGURADUKI STAGE。今回は両日のようすを中心に紹介しよう。

順調な滑り出しとなった土曜日の予選

オリジナル設計されたRCM USA社製A16フレームにKZ1000ベース+腰上GPz1100+各種チューニングが加わったエンジンを搭載するほか、ZX-10Rフューエルインジェクションシステムといった野心的な仕様で製作されたZレーサーⅢだが、決して順風満帆で製作されてきたわけではない。

とくにトラブルメーカーとなったのはエンジンだ。空冷エンジンのエンジンチューニングといえば同社でも日常のカスタムマシン製作で手がけることが多いパート。ただ、ストリートで求める性能と、レースで勝つための性能とはまた別次元でもある。とくに同社が参戦するスーパーモンスターエヴォリューションクラスは、テイスト・オブ・ツクバ最強レベルの水冷車がズラリと並ぶハーキュリーズクラスとの混走。対比すれば空冷車としては最強といえる160psでもロアパワーの部類に入り、さらにはニンジャH2Rという二輪史上最強レベルのマシンすら参戦することもある。それに対抗するにはできるだけパワーがあるエンジンにしたい。それだけに突き詰めた仕様を追求し、結果としてブローなどを引き起こしたり、さまざまなトラブルを発生させたのも事実だ。

ZレーサーⅢのエンジン
こちらは2019年7月に一度完成していたZレーサーⅢのエンジンだ。ただし最初に入手したGPz1100シリンダーヘッドは劣化が著しくてプラグホールがダメになったりといったトラブルが多発。仕方がなく2基目を購入してチューニングをやり直したりと、主に経年劣化を原因とするトラブルに悩まされてきた

近いところではブローバイがあまりにも多量に発生。酷いときには走行数回でオイルキャッチタンクが満タンになることも…。さまざまな視点から改善に着手し、ワンウェイバルブの取り付け対策などを行なったうえで、最終的にはSAE(後輪)151ps、シャーシダイナモの修正なし158psを発揮させるエンジンを用意。11月7日(土)の公式予選時に挑むことになった。

ZレーサーⅢを駆る國川浩道選手
ZレーサーⅢを駆るのは現役国際ライダーの國川浩道選手。普段から走らせているJSB1000マシンなどと異なり、熱に弱い空冷車のマイレージをどう活用するかの戦術をつねに検討し、タイムアタックに挑んだ

その11月7日(土)だが、筆者はまずピットでの状態を確認後、コースサイドに移って走行写真を最終コーナーで撮影しようとしたのだが、周回したのを確認したものの、1〜2分経っても戻ってこない。嫌な予感がする。

すると、ZレーサーⅢをライダーの國川浩道選手がピットロードを押してくるのが目に飛び込んでくる。今度は何だ。過去のトラブルが脳裏をよぎる。

ZレーサーⅢを駆る國川浩道選手
たまたま最終コーナーに張っていた筆者の前を通過する國川選手。じつは筆者はZレーサーⅢと対面するのが2019年7月以来であり、当日もエンジントラブルで走行中断になった記憶がよみがえった

ピットに戻ったZレーサーⅢ。しかし関係者には不思議と悲壮感がない。

ピットに戻ったZレーサーⅢ
ピットに戻ったZレーサーⅢを追いかけて同チームピットに戻ると、意外とピットスタッフに悲壮感がなくアットホームというか団らんする姿が。國川選手にも笑みが見える

少し意外だったので鈴木誠太郎・同社レーサー総責任者に話を聞くと、バンクさせすぎたためにエンジン右側のポイントカバー部分が接地し、装着しているピックアップコイルのカプラーが抜けてしまい、失火したとのこと。エンジン内部の重篤なトラブルではなくカプラー抜けということ、そしてそのカプラーが抜ける前周には、スーパーモンスターエヴォリューションクラスのコースレコードを塗り替える58秒071をマークしたこと、さらにはカプラーが抜けた周には、そのタイムを上回るペースだったことが搭載カメラで確認できたことから関係者には笑みも見られた。ちなみにそれまでのスーパーモンスターエヴォリューションの公式ファステストラップは同じ國川選手が2017年にイエローコーン・ハムステーキⅡでマークしたものだ。

そして公式予選はわずか3周足らずの周回だったZレーサーⅢがトップ通過。すなわちハーキュリーズ/スーパーモンスターエヴォリューションクラス決勝はZレーサーⅢがポールポジションを飾ることになったのだ。

テイストオブツクバ ハーキュリーズ/スーパーモンスターエヴォリューションクラス決勝 リザルト
こちらがそのリザルト。ニンジャH2やGPZ900Rといった強豪を抑え、予選とはいえ空冷Zマシンがハーキュリーズ/スーパーモンスターエヴォリューションのトップを獲得した瞬間だ

このとき、國川選手はポールポジションどころか57秒台到達、そして翌8日の決勝では総合優勝も明確に思い描がけていた。決勝レースを戦うための戦術も、その戦術を実現する手ごたえも十分に感じられたそうである。

注目を集めた決勝は痛恨のエンジントラブルでリタイア

レースとは筋書きのないドラマだ、とはよく言われる。“こうしたい”と思っていても、自分の都合だけでコトが進むことはない。これは人生のあらゆる事象にもいえることだが、レースはそのスタートからゴールまでの時間が短いためか、そこで起こる出来事はよりドラマチックに感じられる。

11月8日(日)。午前中にはウォーミングアップ走行が開始された。ZレーサーⅢはこれが実戦2戦目。レーサーは走れば走るだけチームもマシンも熟成していくものだ。練習走行も熟成のための貴重な走行時間となっている。

暖機場でエンジンをスタートさせるZレーサーⅢ
暖機場でエンジンをスタートさせるZレーサーⅢ。周囲では「おい、あれってカスピーで連載していたアレだよな」という会話があった…、かは定かではないが、ポールポジションを獲得した空冷マシンということもあり、周囲の注目を集めていた

しかしそのウォーニングアップ走行中にトラブルが発生する。白煙を巻き上げるZレーサーⅢ。その白煙の量は尋常ではなく、多少のオイル上がり・下がりではないと一瞥で判断できたという。そこで原因を究明するため、12時の段階でエンジンを開ける。すると1番側シリンダーのエキゾーストバルブガイドが排気ポート側に向かって落ちていた…。

白煙を巻き上げるZレーサーⅢ
ZレーサーⅢ 各部を徹底的にチェック
ZレーサーⅢ 各部を徹底的にチェック

これほどの白煙は尋常ではない。意を決してエンジンを降ろし、各部を徹底的にチェックしていく。するとバルブガイドの脱落という事態が判明…(写真3枚目)。こうなると何かしらで挟み込むように修正すれば対処できるわけでもない。しかし決勝レースまでの時間は迫ってくる…

バルブガイドの脱落は応急処置で何とかできるわけでもない。そこで急きょ、練習用として同社に残していた予備のシリンダーヘッドを千葉県柏市の店舗から取り寄せ、交換することを決意。そのシリンダーヘッドが届いたのは14時で、そこから15時30分の決勝開始までに、シリンダーヘッドを移植し、さらにインジェクションのマップも調整し直すわけである。

ちなみに予備シリンダーヘッドはツインプラグ化しただけの、ほぼノーマル。圧縮比も大幅に落ちるため、前述した151psから10ps以上落ちていても仕方がないところだ。それでも出走を最優先させて交換となった。

ZレーサーⅢ ピットにてエンジンを再組み立て
この再組み立てを屋外のピットで行なうのはかなり乱暴な話だが、すでに時間はなく、レースとは決勝に出なければ意味がない。窮余の策としてスタッフたちも時間がないなかで必死に取り組む

組み立て作業が完了したのは15時20分。そこから車検官に状態を確認してもらい、出走許可を出してもらったが、15時30分のスターティンググリッドに並ぶ余裕はなくピットスタートとなる。そして決勝がスタート。

他チームをしり目に急ピッチで出走準備に勤しむピットスタッフ
他チームをしり目に急ピッチで出走準備に勤しむピットスタッフ

既にスターティンググリッドに並ぶ他チームをしり目に急ピッチで出走準備に勤しむピットスタッフ。何とか時間には間に合い、ピットスタート
ZレーサーⅢ
同社・中村博行代表が目下の目標としていた“空冷Zがテイスト・オブ・ツクバ最強クラスで先頭を切る”というシーンがまさに実現した瞬間だ。空冷Zオーナーたちにとっても、並み居る強豪チームの最強マシンたちに伍して走れる可能性が示されたといえるだろう

ところが2ラップ目でシフトが入らなくなるというトラブルが発生。無念のリタイアとなったのだった。

ZレーサーⅢ シフトチェンジ不可トラブル
異変は2ラップ目に発生。突如発生したシフトチェンジ不可というトラブルによりペースダウンを余儀なくされる國川選手。こうしてZレーサーⅢによる実戦2戦目の挑戦は、志半ばで幕を下ろすことになった

今後の予定はまったくの未定だが、歩みが止まるわけではない

レースから数日経過したのちに、筆者は中村博行代表と少し話をした。シフトが入らなくなった原因もエンジンを分解したことで判明。何とシフトドラム側面にボルトピンが食い込んでしまい、シフトフォークが抜けなくなり、変速できなくなったという次第だ。

ZレーサーⅢ シフトドラム
写真中央のドラム溝にその痕跡がハッキリ見えるが、ちょうど変速しようとスライドしていく溝に食い込んだような凹みがある。食い込んだことで盛り上がり、シフトフォークが抜けなくなって変速できなくなったのだ

さらにクランクシャフトも精密測定を行なったところ、位相ズレこそなかったが芯ズレが発覚。とりわけクラッチハウジングとかみ合う1次減速ギヤウエイト部がズレてしまったとのこと。

ZレーサーⅢ エンジントラブル
エンジントラブルはエンジンすべてのパーツを精査してこそ原因が特定できる。そのためクランクシャフトも念のためにチェックしたところ、芯ズレが発覚。検査を担当したダイヤモンドエンジニアリングの経験上、150psオーバーの空冷Zでレースをするとこうなってしまうそうだ。ストリートではありえないほど過酷な環境がこのような状態を引き起こしてしまう

こんなことは通常のストリートでの使用では起こり得ない。サーキットではストリートの数倍以上の負荷がかかり、普段からは予想もできない箇所が壊れていく。ただレーシングスピードで走ったり、レースに参加するだけならばそうは壊れないはずだが、とりわけ同社のように最強レベルにチューニングされた水冷車に勝つことを目指しているなら、いろんな箇所に思いもしなかった負荷がかかってしまうからだ。

「当社のレース活動は、水冷最強、すなわちテイスト・オブ・ツクバ最強マシンが集うクラスを空冷Zで戦い、勝つことを目標として掲げてきました。今回、ポールポジションを國川選手がゲットして、決勝レースの先頭に立ったことだけでも喜ばしいことでした。この光景が見たいがためにあれこれ無理をしてきましたからね。

エンジンが壊れるのは、ある意味で仕方がないことだとは思っています。何しろレースとはストリートをただ流しているのとはまったく別世界。レッドゾーンのギリギリまで使い切りながら、しかも相手は180psだ190psだといった水冷車たちばかり。そんな相手と競り合っているんだからエンジンだって壊れてしまいますよ。むろん、毎回壊れる前提で製作しているわけではなく、壊れないギリギリでパワーを得ようとしているわけですが、ある意味で『まぁ、こういうことになってしまうよね』と思うこともあります。

今はリタイアという結果を受け止め、いろいろと検討し直しているところです。むろん、國川選手には頂点を獲ってもらいたいし、そのための努力を惜しむ気はありません。しかし、その一方でハーキュリーズに空冷Zで勝つことは無理なのでは? その無理を重ねることの意義は?といったことが頭をよぎるのも事実です。

ただ、さまざまなトラブルがまったく発生しなかったら”もしかしたら”という思いがあるのも一方の事実です。”たら、れば”は言い出せばキリがないですが、ライダーもチームも『空冷車ではどうやっても無理だ』と諦めてしまったわけではありませんから」

その一方、本企画の根幹ともなったA16フレームに関しては、とくにトラブルや改善点があったという話をほとんど聞かなかった。もともと、A16フレームとは『空冷Zを17インチ化した際に最良のディメンションを得るためには、もはやフレームを交換すべき』という発想から生まれたフレームだ。”空冷Zの根幹とは”などという話をすれば人それぞれだろうが、中村代表にとって空冷Zの根幹はエンジンである。そのエンジンを活かす足まわりを含めたシャーシをフルに作り直したのがA16フレームで作り上げられたZレーサーⅢだ。その意味で、最良の17インチ化空冷Zを実現するというA16フレームの有用性は58秒071を記録したことで実証できたともいえるだろう。

逆をいえば、たとえ160ps超の空冷エンジンを手に入れたとしても、Z1系フレームのままでは58秒071台に到達することはできなかったのでは?と中村氏も感じるところだとか。とくにZレーサーⅢが驚異的なのはコーナリングスピードの速さ。コンパクトな旋回半径はハーキュリーズ勢でも秀でていて、これは17インチに最適化したディメンションと17インチホイールとの組み合わせがあってこそだと中村氏は話す。

ZレーサーⅢ
空冷Zエンジンながら58秒071というタイムを導き出すうえでマストな存在となったのがA16フレームだ。とくに空冷Zフレームでは実現不可能なほどの最少旋回半径で、ハーキュリーズ勢に混じってもその旋回性能は一級品と評することができるだろう

もちろん、その段階に至るには足まわりのセットアップに非常に時間を要している。フレームもじつは剛性過多ではないかと思うところもあったそうだが、A16フレームがレースでも通用することは、もはや誰の目にも疑いようがない。ただし、レースとは予選結果ではなく決勝で結果を残してこそ万人に認められるのも事実。では、そのためには何をどうすればいいのか。エンジンの熟成を進めればいいだけなのか。

今は答えが見付かっていない。しかし同社の挑戦はまだ続く。テイスト・オブ・ツクバの頂、あるいはまだ見ぬ遥かなる頂に向かって。

(未完)

四ッ井 和彰

元・本誌副編集長。バイク業界歴は10数年。現地取材、撮影、原稿執筆まで一貫して一人で行なうことが多いワンマンアーミー。現在はwebカスタムピープルなどクレタ運営のバイク系ウェブサイト4誌分の記事製作を担当中

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