カスタムの疑問

自分好みの乗り味やスタイルに愛機を構築していくのがカスタムだ。自由な発想のもと、理想形に近付けていくことは、バイクライフにおける楽しみの一つでもある。しかし、いくら自由な発想といっても、押さえておかなければいけないポイントは多数ある。公道を走る以上、安全面や法規面でクリアしなければならない要素は多く、また正常に各部を機能させるためのノウハウも必要になるのだ。そこで多くのライダーが抱いているであろうカスタムに対する疑問を抽出し、その解答を探っていく。

[カスタムの疑問]パーツ交換・修理時に発生する工賃とは?

ページを共有

修理やカスタムした際の明細に、必ず記載されている工賃という項目。いわば作業料金のことだが、実は明確な基準は存在しない。バイク業界だと1時間あたり8,000円〜1万円が目安とされているようだが、ではこの価格の理由は何だろうか。

工賃の高い・安いは店しだい。それぞれには理由がある

ショップに何かしらの作業を依頼し、見積書をもらうなり実際の請求書を確認すると、交換したパーツの代金以外にも作業工賃というモノが発生し、記載されていることに気付くはずだ。では、この工賃とは一体なのだろうか。

一般的に工賃とは「作業する時間×1時間あたりの作業代(手数料+技術代)」で算出されていることが多い、文字どおり作業を行なうための料金だ。この作業する時間は実際に必要になった時間どおりではなく、日本自動車整備振興会連合会が定める『自動車整備標準作業点数表』を基準として、サービスマニュアルやパーツリストなどで概算が示されている。

そのため第三者にも作業時間の目安がわかりやすいのだが、実は作業代には明確な基準が存在しない。そのためショップによって作業代には幅があり、同一地域でもA店では1万円だったのに対し、B店では8,000円だったということもある。では、この値段の差は何かと考えると、高く設定されていればディーラー店ならではの安心感であったり、専門店ならブランド力や専門店ならではのノウハウの差であるとも考えればいいだろう。ショップに預けるのは自分で作業を行なう時間を節約するためと、その作業に対する信頼を得るためでもある。メーカー直営店や正規取扱店に持ち込むのは“正規店だから安心できる”という安心感を買うためでもあるはずだ。なお同時に、同じショップであっても定期的に整備などを依頼している常連と、飛び込みで作業を依頼する人とでは差異が生じることもある。飛び込みでの依頼とは言ってしまえばイレギュラーであり、先に予定していた作業を場合によってはストップさせて対応するわけだから、新車から面倒を見ていれば1万円だが飛び込み修理だと1万5,000円で対応する、というショップも存在する。こういった考え方はショップそれぞれなのだ。

工賃はどう決まるのか?

工賃とは基本的に項目ごとに設定された作業時間×作業代で算出され、ユーザーに請求される。この作業代には明確な基準はなく、人件費や家賃、グループ加入店ならそのグループのブランド力なども加味して決められていることが多い、と先にも書いた。そのためカスタムであれば“空冷Z系を中心に扱うショップ”といった、およそのカテゴリーが同じであっても店舗ごとに違いは存在する。その設定はショップが主体的に決めるモノであり、「A店は安かったのにここだと高い。B店だとサービスしてくれたのにここは工賃が発生している」などと言う人もいるようだが、その工賃設定と、工賃設定から導き出された見積もりに納得できないなら極論からすると自己責任で自ら作業すべき。ショップの作業とは奉仕ではないからだ。

低い工賃設定にすることで多様な作業を行なってもらい、安心を得るという考え方も

では、安いということは信頼性やブランド力が低いということになるのか。今回はあえてカスタムシーンでの有名店でありながら比較的工賃が低いと思われる(1時間あたり6,000円が基準)サンクチュアリー本店に低く設定している理由を聞いてみた。

「当社が工賃単価を低めに設定しているのは、作業が多岐にわたるからです。エンジンの分解・チューニングはもちろんですが、フレームまで分解し、歪みを矯正してから補強を入れたり一部を作り直して再塗装となると、膨大な時間と複雑な作業を経ることになります。これらをすべて時間代で算出すると、大変な工賃になってしまいます。そのため単価を抑えることで安心してカスタムした結果を楽しんでもらいたいと考えています」

これは一般整備でも同様のことがいえる。たとえばだが、スイングアームピボットのベアリング交換を依頼したとしよう。そのためにはホイールやスイングアーム、ブレーキ類を着脱することになるが、その際に同社ではホイールベアリングやアクスル類、はたまたチェーンの延びやスプロケットの状態などもチェックしている。本来なら依頼された部位だけ見て、その状態から交換が必要かを判断するだけだろうが、同社に持ち込まれる車両は同社が最初から手がけたマシンが大半。そのため定期点検も兼ねて、可能な限り周辺もチェックしているのだとか。

チェック時の清掃も同時に行なう

パーツ交換時、同社では関連した各部位を清掃しているが、一般的にはこういう工程を経ず交換のみされることも多い。しかし将来的にも同社で継続的に整備することも考えると、状態を保持するためにも清掃を推奨したいとのことだ。

「『それぞれに工賃がかかるのだから、そんなところまで見なくていい』と思われるかもしれませんが、オーナーに黙って作業して作業工賃を請求する、なんてことはありませんし、バイクが正常な状態で走れるように、必要と思われることを提言しています。足まわりにしても、ブレーキパッドが摩耗していればローターにも何らかのダメージがあるでしょうし、ブレーキキャリパーも相応に汚れているはずです。それらをオーナーが普段から細かくチェックしているのであればいいのですが、月に1度程度しか乗らない人ですと、なかなかチェックまでは至らないと思います。チェックをしても対応しないのであれば、バイクはどんどん壊れていく一方です。

普段あまり乗らない人はもちろん、普段乗っていても各部の劣化は徐々に進行するため、なかなか気付きにくい部分もあります。たいていの人が『おかしい』と感じた際には、プロからすると壊れている状態です。できるだけ早めにプロに判断してもらうことで、愛車を良好な状態にたもつ。当社が工賃を低く設定しているのは、できるだけ多くのパートを良好な状態にしたいからです」

ショップは訓練や修練を経て獲得した高度な技術をユーザーに提供し、その対価として工賃が発生している。その工賃には明確な基準はないが、それぞれの工賃設定には相応に理由があり、高く設定することで安心・安全を保障するという考え方もあれば、その一方では安くすることで広くチェックする、という考え方もあるのだ。高いから致せり尽くせりとは限らないのも、おもしろいところかもしれない。

工賃は間違いない作業の対価として考えたい

カスタムショップは慈善事業ではなく営利を目的とした企業だ。そして営利が適正かをどう裏付けるのかは信頼できるかにかかっている。そのためショップは確実で正確な作業を行なうことで安全を担保し、信頼を得ているのだ。そのためちょっとした作業でも万全を期しているし、ちょっとした作業だからタダにしろ、というのも間違い。すでに下準備から一般人が持ち得ないノウハウが注ぎ込まれているからだ。同社も単価を抑えつつ万全の準備と作業を行なっている。

四ッ井 和彰

元・本誌副編集長。バイク業界歴は10数年。現地取材、撮影、原稿執筆まで一貫して一人で行なうことが多いワンマンアーミー。現在はwebカスタムピープルなどクレタ運営のバイク系ウェブサイト4誌分の記事製作を担当中

※本記事はカスタムピープル163号(2017年1月号)掲載記事を一部再編集したものとなります

取材協力サンクチュアリー本店
TEL04-7199-9712
URLhttp://www.ac-sanctuary.co.jp


人気記事