カスタムの疑問

自分好みの乗り味やスタイルに愛機を構築していくのがカスタムだ。自由な発想のもと、理想形に近付けていくことは、バイクライフにおける楽しみの一つでもある。しかし、いくら自由な発想といっても、押さえておかなければいけないポイントは多数ある。公道を走る以上、安全面や法規面でクリアしなければならない要素は多く、また正常に各部を機能させるためのノウハウも必要になるのだ。そこで多くのライダーが抱いているであろうカスタムに対する疑問を抽出し、その解答を探っていく。

[冷却系カスタムの疑問]冷却系の強化とはどうすればいいのか?

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冷却系カスタムの疑問
冷却系の強化とはどうすればいいのか?
基幹となる外部クーラー類の大型化が近道です

冷却システムはなぜ強化=交換しなければならないのか

エンジン性能を安定して発揮させるためには、エンジンが発する熱を安定させることがポイントになる。冷却効率を高めることは、カスタムを進めるうえで重要なポイントになるのだ

エンジンの歴史を振り返ってみると、高出力化の裏では熱との戦いが繰り広げられてきた。燃焼や金属の摩擦でエンジンの熱が上がりすぎれば、潤滑のためのエンジンオイルが性能を発揮しなくなったり、場合によっては金属パーツが焼き付いてしまうからだ。そのため、エンジンの冷却方法が空冷から油冷、水冷へと進化を遂げてきたのである。

車両メーカーはさまざまな考慮のもと冷却効率を定めている。しかし、その冷却効果はあたり前の話だがマシンが純正状態であることが大前提だ。マフラーやキャブレター、点火系などを強化して出力がアップすれば、システムとしての許容量をオーバーしてしまうことも考えられる。その対策として、冷却システムの一端を担うオイルクーラーやラジエターを大型化することで、物理的に冷却効率を高めるのがカスタムシーンにおいてもよく見られる手法となる。

何らかの条件を満たした途端に冷却システムの許容範囲を超えて即時オーバーヒートになったりエンジンにトラブルが発生する、とは限らないが、熱をしっかりとコントロールすることは安定して性能を発揮させるため、不要なトラブルを回避する意味でも重要。とくに出力系に手を付けるなら、しっかりと対策を講じたいところだ。

ただし、この冷却システムも構造や外部装置を単純に大型化すればいいというものでもない。エンジンの熱とは高すぎてもダメだが、低すぎるのもNG。エンジンに重篤なトラブルを招きやすいといわれるのは、じつはオーバーヒートではなくオーバークールの状態のほうでもある。テンプメーターで温度をしっかりと把握して、過不足に応じて必要なサイズのオイルクーラーやラジエターを選ぶのが肝要なのである。

選ぶ際のポイントだが、社外オイルクーラーやラジエターには熱消費量(カロリー量)が公開されているモノもあるので、その数値を目安にできる。ただ、そのカロリー量は目安にはなるものの、具体的に装着時に何度下がるといったことまでは明確化されていない。装着する車両、その車両の状態、走る場所などなど、個々の使用条件が異なるからだ。ゆえに、冷却系を強化するためにオイルクーラーやラジエター交換を行なうなら、自車に近い仕様のカスタムマシンを製作しているプロショップへの相談が近道。乗り方や普段走る場所なども合わせて相談すれば、より自車に適した冷却効率が得られやすくなるはずだ。

オイルクーラー ストレート
オイルクーラー ラウンド

オイルクーラーは内部にオイルを流して、走行風で温度を下げる構造になっている。コアの段数やサイズで冷却効率が変わってくるので”サイズが大きい=カッコいい”のはもちろんとしても、それだけではなくエンジンの発熱量に見合ったオイルクーラーを選ぶこと
ラジエター
ラジエター

ラジエターはエンジンオイルの代わりに冷却水を循環させて冷やすアイテムだ。オイルクーラー同様、エンジンの仕様に合わせてサイズを選ぶべきモノ。写真右のように高年式モデルの純正ラジエターを低年式車に流用するケースもある

配置のベストな位置は車体前方

オイルクーラーにしろラジエターにしろ、エンジンオイルや冷却水を冷やすにはラジエターやオイルクーラーのコアに走行風があたり、コアのすき間を走行風が通過することが前提になる。純正ラジエターなどに装着されている冷却ファンは、高温時、あるいは停車時にも走行風に相当する風をあてるために設けられているのだ。

単に冷やすということだけを考えれば、走行風を受けられる場所ならどこでもいいわけだが、横に張り出すように装着すれば車体幅が増えたり、ホースを長く設ける必要があったり、転倒時に破損する可能性が高まったりと、さまざまな理由があって横方向への配置はほとんど想定されていない。そのため、エンジン前方に設置するのが一般的だ。走行風を受けるための前方障害がほとんどなく、かつエンジンに近いのでホース類を長く設ける必要がなく、さらには抜けていく走行風でエンジンケースの冷却を阻害しにくい、といった理由が挙げられる。

それ以外にも、ヘッドライト下やシート下に設置するケースもあるが、ポピュラーな方法とは言いがたい。

冷却効果を高めるための、大型化以外の方法

冷却効率を高める方法として、ラジエターやオイルクーラーを大型化するのが一般的なメニューだ。だがそれ以外にもエンジンオイルを一度エンジン外に出すことで走行風をあてて冷却したり、ラジエターファンを大径タイプに変更したり、ラジエターファンを温度感知式ではなく強制式にしたり、はたまた空冷車ならシリンダーフィンを追加・増設・大型化するといったメニューが存在する。

それら以外にも空冷Z系のオイルポンプを交換して供給量をアップさせて循環効率を高めようといった方法もある。水冷車ならホンダ車などに見られる水冷式オイルクーラーの移植といった手法もあるし、ウォーターホースをチタンにして放熱効果に期待する手法も考えられる。オイルクーラーやラジエターにシュラウドを設けることで走行風を積極的に活用する手法だって存在する。

なお、近年のフルカウルモデルだと風洞実験によってエンジンへの導風や熱の排出についても非常に研究が進んでいる。つい最近だと2020年9月発売予定のNinja ZX-25Rは、エンジンルームへの導風とエンジンの熱排出を促進させることを重視したカウルとなっている。そういったモデルはカウルがないと空力はもちろん、冷却効果にネガが生じることになりかねないので注意したい。

冷却水のメンテナンス
水冷車は冷却水のメンテナンスも忘れてはならないポイント。なぜなら冷却水の性能は徐々に低下していくし、性能が低下すると内部がサビて効率がさらに悪化する。交換時に高効率性のモノに交換するのも手だが、こまめな交換をまずは心がけたい

大型化はつねに正義、ではない

オイルクーラーやラジエターを大型化することで冷却効率は高まるが、注意すべき点はある。それは冷えすぎること。日本の気温は一定ではなく、夏の日中は適温をキープできても、夜間の山中だったり、あるいは季節が変わって冬になれば冷えすぎてしまうこともあるということ。その場合、走行風があたる面積を減らすことで、冷却効果を低めて対処すればいい。

エンジンとは熱を帯びる前提で設計されている。ピストンは熱膨張した状態でのクリアランスを前提に設計されているし、エンジンオイルもある程度の熱を帯びた状態での流動性が重要だ。そのため冷えすぎると所定の性能を発揮できないばかりか、エンジン内部に重大なダメージを招くことすらあり得る。エンジンを労わる意味でも、バイクは走行時、適正な温度域を維持することが重要だと知っていただきたい。

テープなどで目張り
季節ごとにラジエターやオイルクーラーをその季節に適したサイズに変更するのは現実的ではない。冬場にオーバークールを防ぐための方法として、テープなどで目張りして対処するのが一般的だ


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