カスタムの疑問

自分好みの乗り味やスタイルに愛機を構築していくのがカスタムだ。自由な発想のもと、理想形に近付けていくことは、バイクライフにおける楽しみの一つでもある。しかし、いくら自由な発想といっても、押さえておかなければいけないポイントは多数ある。公道を走る以上、安全面や法規面でクリアしなければならない要素は多く、また正常に各部を機能させるためのノウハウも必要になるのだ。そこで多くのライダーが抱いているであろうカスタムに対する疑問を抽出し、その解答を探っていく。

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サスペンション系カスタムの疑問
フロントフォークの太さや形状で何が変わるの?
ブレーキングやコーナリングでの安定性向上につながります

[サスペンション系カスタムの疑問]フロントフォークの太さや形状で何が変わるの?

フロントフォークは大径になるほどに優秀なのか?

正立タイプの純正フロントフォークは時代とともに大径化しているが、およそφ41㎜が上限となっている。それに対して、オーリンズ製を筆頭に多くの社外製はφ43㎜を採用していることもあり、大径化するのがフロントサスペンション系カスタムメニューのスタンダードと化している、と言ってしまっていいだろう。

では、そのメリットは何なのだろうか。まず、単純に考えてもフロントフォーク全体が太くなれば剛性が高まる。フロントサスペンションは正面から見ると日の字形状で締結されているが、この両サイドが強くなると全体のねじれ耐性が強まり、コーナリングではねじれようとする動きを抑制し、かつブレーキングの安定感が増すことにつながるのだ。

ただし、フロントフォークの大径化はあらゆるケースで正解とは限らない。タイヤやシャーシとのバランスが重要になるので、フロントフォークだけやたら大径化させてしまうと車体とのバランスがくずれ、剛性過多からの乗りにくさを生むことになることも。社外製といってもφ43㎜だけではなくφ38㎜やφ41㎜のモノもあるので、購入前には信頼できるプロショップなどとよく相談することを推奨したい。

この相談する際にも、将来的にエンジンや車体まわりすべてに手を入れるつもりなのか、それとも現状+αを求めているのか、といったカスタムの展望も考えよう。カスタムの完成形をどう考えているのかで選択も異なるからだ。

なお、オーリンズ製φ43㎜正立フロントフォークはボルトオン設計の車種であれば、その車両が持つポテンシャルを引き出せる設定を追求しているという。ただし基本的にオーリンズ製正立フロントフォークはCB1300系、ゼファー系、ZRX系といった具合に車種が設定されているので、それ以外の、たとえば空冷Z系に導入しようとするなら、あくまでユーザー個々がバランスを考えなければならないことも承知しておこう。汎用品と位置付けられていないオーリンズ製はもちろん、汎用品として位置付けられている他社製品も、車種専用品でない限りはリセッティングが不可欠だ。

ゼファー1100の17インチ化
ゼファー1100は17インチ化すると前下がりになるが、オーリンズ製は当初から対応できるよう15㎜余裕を持たせた全長を設定。もともと国産ネイキッド車への採用を想定した設計なのだ
倒立フロントフォーク
倒立フロントフォークはアウター側を上にすることで大径化しやすく、またインナーチューブとアウターチューブの管合長が大きく取れるため剛性が正立フォークより高くなるのだ
オーリンズφ43㎜正立フロントフォーク
オーリンズφ43㎜正立フロントフォークはボルトオン設定された車種であれば車体性能を引き出す設定がされている。他車種に流用するなら、リセッティングしなければ性能は引き出せない

ネイキッドに倒立フロントフォークは過度? 不要?

倒立タイプのフロントフォークは正立と反対向きの配置になっており、太いアウター側をブラケットが保持するため、フロントサスペンション全体の剛性をアップさせることができるのが魅力だ。フロントフォークを交換する目的が、剛性アップさせることでブレーキングやコーナリングでの安定感向上を追求する、ということであるならば、倒立フロントフォークのほうが限界値は高く、高性能と言っていいだろう。

ただ、倒立フロントフォークは『ネイキッドには剛性が高すぎるので不要、むしろ動きを阻害することもある』という声も聞く。確かに、全体的に剛性が高いスーパースポーツに倒立フロントフォークが採用されることを考えると、スーパースポーツより車体剛性が低い鉄フレームのネイキッドに倒立フロントフォークを用いると剛性過多になって、動きにくさをもたらす可能性も否定できない。

では、性能を追求するにはネイキッドだと車体剛性をスーパースポーツ並みに引き上げたうえで倒立フロントフォークを導入するのが正解なのだろうか? 

実はそれも正解ともいいがたい。性能的にはオーリンズ製正立フロントフォークでも、たとえば草レースというカテゴリーながらハイレベルなレースで知られるテイスト・オブ・ツクバに出場して、1周59秒台に突入した車両もある。正立フロントフォークだから性能が低い、というわけではないのだ。

倒立・正立フォークいずれかを採用するかは、あくまで走るステージで選択したい、というのが、過去にオーリンズの正規代理店ラボ・カロッツェリアで取材した際に得た回答。倒立フロントフォークでも車体とのバランスを適正化させれば十分に機能させることは可能なのだ。とはいえ、このバランス化は簡単な話ではないこともあるので、豊富な経験を持つサスペンションカスタムに詳しいプロショップとよく相談したいところだ。

なお、かつてはスポーツマシン専用だった印象も強い倒立フロントフォークも、現在のオーリンズ製は全長が比較的長いモデルもあり、これを使うことでセッティングが出しやすいとのこと。そのためネイキッドでも使えるが、繰り返すが車体全体を含めたセッティングをしっかりとしなければ機能しにくいのも事実だ。

機能パーツ全般にいえることだが、何も考えずただポンと導入すれば素晴らしい結果を導き出せるとは限らない。倒立フロントフォークを有効に活用できるかは、ただ倒立フロントフォークだけの問題ではないことも知っておこう。

極限を追求するなら倒立フロントフォーク
筑波サーキットで1分切りをねらうほど極限を追求するなら倒立フロントフォークの出番だ。高剛性で強烈なパワーとブレーキングによる高荷重にも耐え、姿勢制御を容易にしてくれるためだ

ノーマルフロントフォークをカスタムしても社外製フロントフォークとの性能差は大きいのか?

純正フロントフォークは社外製のスプリンクやオイルに交換することでも作動性を変えられる。“社外製フロントフォークを導入する前に、まずフロントフォークのスプリング交換から…”と考えている人も少なくないだろう。

では純正フォークスプリングと社外製スプリングとの違いは何だろうか? 端的に説明すると、スプリングの特性が大きな違いだ。

純正スプリンクに多く採用されているのはバリアブルレートなのに対し、たとえばオーリンズ製はシングルレートが中心になっているので、ダンピング特性が純正から大きく変化する。具体的にはフロントフォークの入りがやや遅くなるため、しっかりと踏ん張るように感じられるようになる。

しかし、それだけでは社外製フロントフォークへの交換に比べ、性能面ではまだ及ばない。社外製フロントフォークはスプリングに加え、フォーク自体の高剛性化や高い精度による作動性の向上などの違いが相乗効果で積み重なるので、劇的な性能差を得られるようになる。よく社外品は調整機能によるセッティング対応力が高いことを”性能”として挙げられるが、性能とは何かしらの単独部品の違いや差ではなく、トータルで生まれるモノ。ゆえに、純正改では社外製フロントフォーク交換には性能的には及ばないのだ。

蛇足気味だがひと言付け加えたい。性能差があるのは事実だが、純正改でもオーナー個々の乗りやすさを向上させることはできる。オイルの番手や油面調整だけでも特性を変えることはできるので、まずはメンテナンス時のオイル交換時にいろいろ調整することからスタートしてみても悪くはないはず。まずオイルが違うとどんな違いが生じるのかを知るのも、カスタムを進めるうえで有益な情報になるだろう。

ショックユニットの他車流用ってどうなの? 問題は?

低年式車に高年式車の純正サスペンション一式を流用したり、または別車種用ラインナップから社外品をチョイスする、というケースは本誌で幾度となく紹介してきた。空冷Z系にXJR1200純正フロントフォークだとか、ゼファー750にZRX1200系用社外製フロントフォークといった具合だ。具体例を挙げていこうと思えば次から次へと出てくるので、今や一般的なスワップ方法といってもいいだろう。では何の問題もないのだろうか?

基本的には純正品もそうだが、出荷時に“ゼファー1100用”などと表記されている製品は、その車両用に設定した内容で製作されている。純正ショックであれば採用している車両に適切な特性が与えられているわけだ。取り付けピッチや全長が同じだからという理由で流用するケースはカスタム黎明期の1980年代から多々見られるが、それはただ”取り付けられた”というだけ。性能をフルに発揮できる状態とは言い難いのだ。

流用したなら、その車両にマッチするようにリセッティングしなければ、もとが高性能だろうとその性能を発揮させることはできない。似たようなコンセプトで生まれたバイク同士だろうと、同じような車重や車体姿勢だとしても、基本的にサスペンションがポン付けで無条件に性能を発揮することは皆無とすらいっていい、とよく認識しておきたい。

高年式ミドルクラスの大径フロントフォーク
小径フロントフォークを採用する低年式大排気量車に高年式ミドルクラスの大径フロントフォークを流用するケースもあるが、サイズが合致するからと装着しても、セッティングも見直さなければ性能を発揮しないし、底付きなど危険なこともある。車重から違う=動き方がまるで変わることも周知したい


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