加工&処理の種類を知ろう

カスタムを進めるうえで“○×処理”や“△□コート”という名前はよく耳にする。しかし、その単語を知っていたとしても“どういった効果が望めるのか、どのような工程を踏まえるのか”といった詳細までは知らない人が多いのではないだろうか。そこで今回は、その道のプロフェッショナルに話を聞いた。理解を深めたうえで、愛機に導入するかを検討してほしい。

性能を高める手助けとなる「WPC処理」を知ろう

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エンジンチューニングの世界ではよく耳にするようになったWPC処理。これはどういった加工なのだろうか。WPC処理を手がける不二WPCに聞いた。

WPC処理とは?

エンジンチューニングの際に面研などの従来からの単語に加えて、よく語られるようになったWPC処理。このWPC処理という名称は、不二WPC・不二製作所・不二機販が保有する登録商標で、ミクロン単位のごく微細なメディアを金属表面に高速・高圧で吹き付けることで表面を加工する技術の総称を指す。

イメージとしてはサンドブラストに近いが、ブラストは表面を削るのに対し、WPC処理はミクロン単位の粒子を衝突させることで表面をならす。いわば鍛造と同じ状態を生み出すことで疲労強度を高める効果が期待できるという。

なぜそのような処理をするのか。本来、金属表面はどんなに細かく磨いたとしてもごく小さいキズがあり、そのキズが広がって破断していく性質がある。そのキズを叩いて消すことで破断するキッカケをなくし、かつ表面全体をならすことで全体の強度を高めようとしているのだ。もちろん叩くといってもミクロン単位の粒子であるため、もとの基材に与える影響はほとんどない。WPC処理したからといって、ミリ単位で小さくなるといったことはないのだ。

そしてもう一つの効果としては、ミクロン単位での微細なくぼみを生み出すことが挙げられる。これはディンプル処理と呼ばれ、空気やオイルが作られたくぼみに入り込むことで表面の摩擦を低減させられるのだという。これはゴルフボールをイメージするとわかりやすいだろう。ゴルフボールはあのように無数のくぼみがあるからこそ空気の抵抗を最小限にして飛行距離を伸ばしているのだ。また、くぼみにオイルが滞留するとエンジンパーツの抵抗低減に大きく寄与できるため、四輪メーカーにも広く認められているという。

WPC処理 シフトフォーク
WPC処理 バルブスプリング

基本的にはピストンやクランクシャフト、カムシャフトといったパートに施工されることが多いが、バルブスプリングやシフトフォークに施工することで耐久性を上げることもできる。ただし、中古品の状態を新品状態に復元するわけではないので、できれば新品に施工したい

スズショットとモリブデンショットとは?

微細な二硫化モリブデンの粒子を高速で金属表面に衝突させ、金属内部に閉じ込めることを何層にもわたって繰り返すことで長期的な摩擦低減を図るモリブデンショットという加工が存在する(上位版として、高温安定固体潤滑ナノ粒子を添加したハイパーモリショットと呼ばれる加工も存在する)。また、モリブデンだけではなくスズを用いたスズショットもあり、これらを組み合わせることで長期的な寿命延長、摩擦低減を図ろうとしているのだ。

スズショット処理ずみのシフトドラム
ハイパーモリショットずみのピストン

写真上がスズショット処理ずみのシフトドラムで、下がハイパーモリショットずみのピストン。WPC処理は金属加工ではあるが、加工によって特性が変化することがあるため、パートごとに適切な処理が異なる。たとえばクランクやカムホルダー、コンロッドはWPC処理が適しているが、オイルポンプギヤやシフトドラムなど比較的柔らかい素材にはスズショット、ピストンやメタル類ならハイパーモリショットがお勧めとのこと。適材適所で使い分けることにより、エンジン本来のパフォーマンスを引き出せるというのが不二WPCの考え方だ

3Dラッピングとは?

ラッピングと書くと“包む”という意味にとらえられがちだが、磨くという処理もラッピングと呼ばれている。不二WPCでは最終的な磨き工程として3Dラッピングを導入しているのだが、これは一般的なサンド/ウェットブラストなどと異なり、ゴム成分の粒子の周囲に微細なダイヤモンド粒子が付いたメディアをあてるのだという。一般的なブラストだと基材に衝突した瞬間にメディアは弾かれ、メディアとあたった場所が無条件に削れていくが、中核がゴムなので基材に沿って基材表面を転がり、出っ張りにあたった際に初めて摩擦が発生するのだという。そのため基材に与える影響を最小限にとどめつつ磨くことができる、というメリットがある。クランクシャフトやクランクジャーナルなどに使われるケースが多い。

3Dラッピングで最終仕上げがすんだクランクシャフト
こちらは3Dラッピングで最終仕上げがすんだ状態だ。WPC処理により疲労低減はもちろん、耐摩耗性やフリクション低減につながるため、エンジンチューニングの基礎加工として施工するチューニングショップも多いという
3Dラッピングを施した純銀製のペンダントトップ
写真は純銀製のペンダントトップだが、通常は磨けないような複雑で細かい部分も磨けているのがわかるだろう。銀のように柔らかい素材にも施工可能なのもポイントだ
取材協力不二WPC
住所神奈川県相模原市南区大野台4-1-83
TEL042-707-0776
URLhttps://www.fujiwpc.co.jp


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