カスタムの疑問

自分好みの乗り味やスタイルに愛機を構築していくのがカスタムだ。自由な発想のもと、理想形に近付けていくことは、バイクライフにおける楽しみの一つでもある。しかし、いくら自由な発想といっても、押さえておかなければいけないポイントは多数ある。公道を走る以上、安全面や法規面でクリアしなければならない要素は多く、また正常に各部を機能させるためのノウハウも必要になるのだ。そこで多くのライダーが抱いているであろうカスタムに対する疑問を抽出し、その解答を探っていく。

[カスタムの疑問] 社外カウルに交換するメリットは何だろう?

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「純正カウルが傷付いてしまった」「愛車の雰囲気を変えたい」。そんな場合に注目されるのが社外カウルであるが、交換するメリットはことのほか多い。では、はたして、純正のカウルから社外カウルに交換するメリットとは何なのか? まずはそのうえで押さえておきたい基本知識から紹介しよう。

素材を変えることで軽さと美しさを生み出す社外カウル

バイクの外装パーツ、その素材は純正品と社外品で大きく異なる。まず、純正の外装パーツに主に用いられているのはABS樹脂と呼ばれる合成樹脂、いわゆるプラスチックである。

ABS樹脂の特徴は耐熱性、耐油性にすぐれ光沢もよい。さらに金型を使っての大量生産にも向いているため、バイクの外装としては理想的な素材である。しかし、転倒などで傷が付いてしまうと修復が難しく、買い替えるとしても比較的高額となってしまう。また、純正カウルはそれなりに重量があって重い。そこで注目されるのが、カウルなどの社外製外装パーツである。

社外メーカーの外装パーツはガラス繊維と樹脂を組み合わせた、一般にFRP(繊維強化プラスチック)と呼ばれるものと、ガラス繊維を炭素繊維に置き換えたウェットカーボン、そして製造工程において真空で高圧加熱するドライカーボンがある。ABS樹脂が樹脂のみで金型成形されるのに対して、FRPやウェットカーボンはガラス繊維、もしくは炭素繊維と樹脂と組み合わせることで強度を増している。ガラス繊維や炭素繊維は高い強度を備えており、これらを補強材として使うことで、純正カウルと同等の強度を維持しながら、純正カウルよりも樹脂の量を減らして軽量にできるのが最大のポイントなのだ。また、ドライカーボンは樹脂を浸み込ませたプリプレグというカーボン素材を用いて、真空状態で高圧加熱して余分な樹脂を省きながら熱硬化させて作り上げるというもの。もともと炭素繊維は炭であり、熱が加わることでより強度を高めることができる。さらに余分な樹脂を省くことで軽く作れる。そのため、ドライカーボンはFRPやウェットカーボンよりもさらに硬く、そして軽い製品に仕上げられるのだ。

そのほか、FRPは強度があるうえに修復が容易で、原形をとどめないほど割れてしまっても修復することができ、強度もある程度取り戻すことができる。一方、ウェットカーボンとドライカーボンは強度があるものの、転倒などで傷付けた場合は修復が難しい。ただ、ドライカーボンは軽量なのが大きなメリットであり、これらの特徴などからFRPやドライカーボンはレース用カウルなどで先に用いられるようになり、その後にカスタムパーツとしても使われるようになったのだ。ただ、FRPとカーボンは生産過程で手作業が多く、大量生産には向いていない。

また、先端素材でもある炭素繊維そのものが高額で、さらにドライカーボンは高温高圧で長時間焼き上げる窯(オートクレーブ)が必要となるうえ、加工・製作には多くの資材も必要となり、これらが製品価格が上昇する要因となっているのだ。

ところで、FRP製品の多くは表面を白や黒のゲルコートという樹脂層が覆い、見栄えをよくしている。FRP製品の多くは塗装がほどこされるのが前提であり、多くはこの状態で販売されている。一方、ウェットカーボンはカーボン地を見せることで商品性を高めているため、透明なゲルコートを用いてカーボン地を見せることが多いが、塗装も可能となる。なお、ドライカーボンも表面に紫外線からの保護を目的としてクリアコートがほどこされているが、こちらも塗装は可能だ。

純正カウルと社外カウルの違いとは

純正カウルと社外カウルの違いはその素材で、純正カウルがABS樹脂というプラスチックが用いられているのに対し、社外カウルはガラス繊維と樹脂を混ぜたFRPや、ガラス繊維の代わりに炭素繊維を用いたウェットカーボン、炭素繊維と樹脂を混ぜたものを窯で焼き上げたドライカーボンなどがある。純正カウルと社外カウルの大きな違いはまずはその重量で、純正カウルに対してFRPやウェットカーボンは約半分の重量となり、ドライカーボンに至ってはさらに半分、純正カウルに対して1/4ほどの重量となる。また、FRPに関しては修復が容易で、レース用カウルにも広く使われているのだ。

社外カウルの素材はガラス繊維と炭素繊維が主流

FRPに用いられるガラス繊維、そしてウェット/ドライカーボンに用いられる炭素繊維。ガラス繊維はガラスを溶解して繊維状にしたもので、炭素繊維は石油や石炭などを原料として高温で炭化させた化学繊維である。双方ともにもとは繊維状であるため、生地のように織り込んだものを織物(クロス)と呼んでいる。ガラス繊維、炭素繊維ともにそれ自体だけでは形を整えることができないため、それぞれを樹脂と組み合わせることで成形している。また、ガラス繊維、炭素繊維ともに軽量で強度があるため、樹脂と組み合わせることによりABS樹脂と同等の強度を持ちながら樹脂の量を減らしたり、配合を変えたりすることで軽量にできるというメリットがある。

エーテックは実車とすり合わせながら修正を繰り返して高い精度を追求する

アフターパーツメーカーが新たな車両の外装をFRPやカーボンで製作する場合、どのような工程なのだろうか。今回、協力いただいたエーテックでは、まずは実車を採寸するところから始めるが、今は3D計測器で計測してその数値をデータ化し、そのデータに基づいて簡易型を製作するという。この簡易型でまずは試作し、実車合わせを行なうが、この型作りの作業が外装パーツ作りでは、もっとも重要であり、実車に合わせながら修正を加えて簡易型を作り直す、という作業を繰り返すのだ。そして納得する型ができた後に本格的な生産、販売となる。

開発期間は車種にもよるが、概ね3〜4ヶ月を要するという。ちなみにこの型はFRPとウェットカーボンで共用できるが、ドライカーボンは高温高圧に耐えられる専用の型が必要となる。ただ、この型があれば後々にも再生産することができるため、エーテックではとくにこの型作りに力を注いでいる、というわけだ。

ただ、カウルづくりは型がいいからいい製品ができる、という単純なものではない。先に述べたようにFRPやウェットカーボン、そしてドライカーボンともに手作業の部分が多く、職人の腕しだいででき栄えは大きく変わる。それぞれの製作過程ではガラス繊維や炭素繊維を幾重にも重ねており、その重ね方一つにしても、でき具合がよし悪しに大きく影響するという。また、樹脂も天候の影響を受けるため、その日の気温や湿度によって樹脂の配合などを変えている。しかし、そこまでしても、樹脂が固まるまでに反り返ったりして精度が落ちる場合もあるのだ。

最近は純正カウルの形状も複雑となり、純正と同形状のカウルを作るにも高い技術力が要求されるようになっているとのこと。また、海外製の安い社外カウルも出回るようになり、社外カウルを製造するメーカーを取り巻く環境も厳しくなっている。しかし、エーテックでは今までにつちかったノウハウと最先端の技術も取り入れながら、精度の高い製品づくりに自信を示している。純正カウルが複雑な形状になればなるほど、社外カウルを作るうえで高い技術が要求されるわけで、それがエーテックと他社との差別化にもつながると
いう。

社外カウルでイメージチェンジ!

社外カウルの特徴のひとつに、純正カウルのデザインとは異なる趣があることも挙げられる。これは社外カウルメーカーにとっても自社のデザインセンスをアピールできる部分であり、GPZ-RやGSX1300Rハヤブサ、ZZRシリーズなどはさまざまなオリジナルデザインの社外カウルがリリースされ、愛車のイメージを変えたいユーザーから支持された。しかし、昨今はメーカーのデザインもよりブラッシュアップされており、こういったオリジナルの社外カウルは少なくなっているのが現状だ。

山下博央

フリーランスライター&カメラマン

※本記事はカスタムピープル153号(2016年3月号)掲載記事を再編集したものとなります

取材協力エーテック
TEL079-454-7222
URLhttp://www.a-tech.org


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