カスタムパーツの歴史

長いカスタムシーンにおいて、一世を風靡して高い知名度と採用率を誇った歴史的な名品とされるパーツがある。すでに販売終了になって久しいものも少なくないが、それらの輝きは現代にあっても決して色褪せるものではなく、一部は今なお逸品として求める声も少なくない、そういった歴史的な名品の意義や存在を当時を知らない新しいユーザーにはあらためて知っていただきたく、かつ古いユーザーにはその存在を今一度再認識していただくべく、本コーナーでは過去に本誌が収録した記事を再構成してお届けする。
なお、とくに断りがない限り、本コーナーの時系列は記事製作当時に準拠しており、名称や価格などもそれ自体に歴史的な意義があると判断し、可能な限り記事そのままとしていることをご了解いただきたい。

リックマンカワサキ サイドビュー

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1970年代のバイクシーンを彩ったカスタムブランドのひとつがイギリスのリックマン。ここでは、オリジナリティを極力損なうことなく現代的なセンスで仕上げられたカフェレーサーマシンのスタイリングに着眼してみよう

完成度が高かった70年代のカフェレーサー

リックマン(Rickman)とは1950年代にイギリスで生まれたフレームビルダーである。ノートンやホンダ、カワサキなど、さまざまな車両メーカーのエンジンを搭載するフレームを独自に設計し、フレーム単体や完成車として販売していた。欧州には古くから数多くのフレームビルダーが存在し、一部は現在も活動している。ビモータも有名なフレームビルダーのひとつだ。ビルダーが丹念に作りこんだフレームは美しい造形を誇り、すばらしい性能を生み出した。

しかし、名前が有名なわりに日本に現存するリックマンは数少ない。その理由を今回紹介するこの車両のオーナーであるストラットの片根隆二氏は、価格が高価だったことに加えて、当時は逆輸入に対して規制が厳しかったので、あまり輸入されなかったのではないかと推測している。とくに1970年代は逆輸入が難しく、たとえばZ1もほとんど輸入されず、排気量の自主規制下において、国内仕様としてZ2が生産されていたほどだ。

片根氏はアメリカのブランド・BATES(ベイツ)を中心にバイクのウェアやアイテムを販売するストラットの代表でもある。それだけに外国ブランドに対する造詣も深い。

「リックマンも写真などによって日本でもその存在は知られていました。そのため1970年代後半から80年代前半にかけて、リックマンなどを参考にしたフルカウルを製作し、カフェレーサーを作っていたメーカーが日本にもいくつかありました」

ヤジマやコミネといったコンストラクター名を懐かしく思う読者もいるのではないだろうか。70〜80年代前半は、もともとがレーサーとかけ離れた作りの市販車をカフェレーサー化するのに試行錯誤が重ねられていた時代。厳しい法規との兼ね合いもあり苦労は多かったはず。その後、フルカウルやセパレートハンドルが正式に認可され、本格的なレーサーレプリカブームが訪れる。

「そのころユーザーが望んでいたデザインはより先進的なもの。すでにリックマンは時代遅れと受け取られ、需要が少なかったんです。ゆえに輸入される数が少なく、現存する台数もあまり多くないのだと考えられます」

ただ時代というのはつねに動き、ユーザーの趣味趣向も刻々と変化する。今再び70〜80年代前半ごろのレトロともいえるデザインが見直され、受け入れられ始めている。そのため、片根氏のリックマンも出先で注目を浴びるようになったという。

「偶然の出会いから入手できたのですが、エンジンから外装までかなりひどい状態でした。エンジンはクランクケースとシリンダーが別モデルでしたし、外装も傷んでいました。結局は完全にバラしてフルレストアすることになりました」

その際にフレームワークなどを見て魅力を再確認したという。

「一見普通のダブルクレードルフレームですが、作りは完全に当時のレーサーそのもの。タンクの下のフレームは2本になっていて剛性も高い。ただ直線重視の設定なのか、曲がりにくかったですね」

よく見るとフロントフォークはスペイン製、取り付けられていたオプションのホイールはドイツ製と多国籍な部品構成。情報が少なかったので、これまで知られていなかったことも多かった。そしてそのリックマンが持つオリジナリティを大事にしつつ、片根氏のアイデアとセンスを中心に現代風のテイストを織り込み、バイクショップのビッグアールとともに仕上げたのがこの車両だ。

リックマンカワサキ サイドビューカワサキの空冷並列4気筒エンジンを搭載したカフェレーサーとして高いレベルにあるリックマンカワサキ。ブラックにゴールドラインが入ったカラーリングやカウル、サイドカバーの造型などには、ベベル系ドゥカティに通ずるイタリアンテイストも感じられる。現代的な感覚が加えられたことにより、トータルバランスの高さはオリジナルを超えている。

リックマンカワサキ フロントビュー
低い位置に取り付けられた特徴ある形状のカウルは現代のバイクにない魅力がある。造形美をくずさないよう取り付けられたミラーやウインカーなど、参考すべき点は数多い

70年代の造形美を現代の技術で再構築

「正直に言うと、オリジナルのリックマンは現代の目で見るとカッコいいと言い切れない部分もありました。しかし基本デザインは非常に魅力的なので、それを活かす方向で最小限のモディファイを実施しました」

具体的には、カウルに取り付けられているスクリーンを低くスラントしたものに変更。シルエットを現代風のスポーティなものにしている。このカウルの厚みはかなりあり、FRPながら非常に剛性は高い。さらに固定方法もネック部分のカウルステーとエンジンマウント部に設置されたステーで確実に行なわれていて、高速道路走行でもビビらないという。

調べると、カウルのヘッドライト周辺がやや平らになっていることも実車を見て初めて知ることになった他、微妙な面構成など発見も多かった。その造形美をくずさないため、ミラーは小ぶりなモノを装着。ただし質感にはこだわり、アルミの削り出し品を採用している。

また、入手時に装着されていたダブルシートやテールカウルが長く、車体から飛び出しているように見えてしまうことから前を削ってシングルシート風になるようバランスを取った。テールランプはZ1用が取り付けられている。

「実はリックマンにはさまざまな仕様があります。このガソリンタンクはショートタイプです。ロングタイプも存在しますが、ハンドルが遠くなり、日本人にはちょっとツラいポジションになってしまいます。そして何より、形状が自分好みではないんです」

もし、このリックマンがロングタンク仕様だったら購入しなかっただろうと片根氏は語る。このガソリンタンクも実はFRP製のカバーで、内部にはスチール製のインナータンクが入っている。片根氏はスペアも入手しているというからさすがである。

「着座部分やテールカウル部分の長さが異なるシートなども存在します。パーツ選びと取り付け方法によって印象が大きく変わるところもリックマンのおもしろさですね」

偶然入手したリックマンカワサキをレストア、モディファイしていくうちに片根氏はすっかりリックマンのトリコになってしまったようだ。

70年代につちかわれた古きよき部分は大切にし、現代の技術とセンスによってよりスタイリッシュに仕上げられた片根氏のリックマンカワサキ。よいモノは時代を超えて愛されるという好例であろう。

名車リックマンカワサキの細部を見る

ここではリックマンカワサキのディテールについて紹介する。一部は手直しされた部分も含まれるが、ほとんどは1970年代当時の状態をよく残している。今となってはなかなか見る機会がないパーツばかりだ。

フロントカウル

リックマンカワサキ フロントカウル
丸型ヘッドライトを装備したロケットカウルがリックマンの特徴。このデザインを模したカウルは日本でも多数製作され、現在も根強い人気を博している。取り付け方ひとつでスタイルが変わるので、カスタマーのセンスが問われる。片根氏のリックマンは低くスラントしたスクリーンをワンオフ製作することで現代風のシルエットを実現している

タンクカバー

リックマンカワサキ タンクカバー
スチール製インナータンクにFRPのタンクカバーをかぶせるという、デザインの自由度が高くなる手法を採用。リックマンはタンクの長さが2種類あり、これはショートタイプとなる

サイドカバー&シートカウル

リックマンカワサキ サイドカバー&シートカウル
シートとシートカウルは短く加工されベストサイズに。サイドカバーはオリジナルでエンブレムが後付けされた。リヤショックはオーリンズで、リザーバータンクにはカバーが装着される

シートカウル長

リックマンカワサキ シート長のバリエーション
基本的な意匠は同じだが、着座位置やテールカウル部分の長さが異なるタイプが存在する。同じリックマンでもどのタイプのパーツを使うかによって生まれるシルエットは大きく異なる

カウルの厚さ

リックマンカワサキ カウルの厚み
FRPは薄いと軽く仕上がるが、スピードを上げるとバタつくことがある。リックマンのカウルは全体的に厚く仕上げられており、強度が確保されているためブレることがない。エッジは縁ゴムで処理してある

カウルステー

リックマンカワサキ カウルステー
ヘッドライトとカウルを支えるカウルステーは非常にシンプル。必要最小限の部材で作られていて、非常に軽い。それでいて強度も確保されているという合理的な構造だ
横田和彦

1968年6月生まれ。16歳で原付免許を取得。その後中型、限定解除へと進み50ccからリッターバイクまで数多く乗り継ぐ。現在もプライベートで街乗りやツーリングのほか、サーキット走行、草レース参戦を楽しんでいる。

※本記事はカスタムピープル153号(2016年3月号)掲載記事を再編集したものとなります

取材協力ストラット
URLhttps://www.strut.jp/


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